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名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)1640号 判決

名古屋市中川区本前田町二五八番地

第一ないし第七事件原告

池本滋

(以下「原告池本」という。)

名古屋市中川区本前田町二五八番地

第六・第七事件原告

五月自動機工業株式会社

(以下「原告会社」という。)

右代表者代表取締役

池本滋

右両名訴訟代理人弁護士

内藤義三

第一ないし第五事件原告

池本訴訟代理人弁護士

松永辰男

稲沢市陸田一里山町五三番地

第一・第二事件被告

エーアールシー株式会社

(以下「被告エーアールシー」という。)

右代表者代表取締役

井川敏

一宮市大和町戸塚字寺田四七番地の五六

第一・第二事件被告

井川敏

(以下「被告井川」という。)

名古屋市中川区柳川町一四番二三号

第三事件被告

有限会社山田豊商店

右代表者代表取締役

山田豊

(以下「被告山田豊商店」という。)

名古屋市中川区柳川町一四番二三号

第三事件被告

山田豊

(以下「被告山田」という。)

名古屋市東区矢田町七丁目三六番地

第四事件被告

株式会社はせ川フードセンター

右代表者代表取締役

長谷川清光

(以下「被告はせ川フードセンター」という。)

名古屋市東区矢田町七丁目三六番地

第四事件被告

長谷川清光

(以下「被告長谷川」という。)

愛知県西春日井郡清洲町大字清洲一八八七番地

第五事件被告

株式会社服部通商

(以下「被告服部通商」という。)

右代表者代表取締役

服部不二夫

愛知県西春日井郡清洲町新清洲六丁目七番地の一一

第五事件被告

服部不二夫

(以下「被告服部」という。)

静岡県小笠郡大須賀町横須賀一四〇九番地の二

第六事件被告

株式会社遠興

(以下「被告遠興」という。)

右代表者代表取締役

三枝高次

東京都千代田区丸の内二丁目五番二号

第七事件被告

三菱樹脂株式会社

右代表者代表取締役

木下英俊

京都市中京区竹屋町通高倉西入塀之内町六三二番地

第七事件被告

澤嶋株式会社

右代表者代表取締役

澤嶋幸一

東京都台東区台東四丁目二四番二号

第七事件被告

東京フイルム販売株式会社

右代表者代表取締役

大河内信勝

東京都豊島区西池袋五丁目三〇番一号

第七事件被告

日研工業株式会社

右代表者代表取締役

中山要

東京都江東区常盤一丁目一一番三号

第七事件被告

西久保製袋株式会社

右代表者代表取締役

西久保正明

札幌市北区北七条西二丁目一五番一 札幌テーエムビル

第七事件被告

北包連株式会社

右代表者代表取締役

朝妻優

東京都中央区日本橋三丁目一二番一号

第七事件被告

太洋興業株式会社

右代表者代表取締役

中村勉

東京都台東区浅草橋五丁目二九番八号

第七事件被告

シモジマ商事株式会社

右代表者代表取締役

下島通義

大阪市西成区玉出西二丁目二〇番二四号

第七事件被告

株式会社ヱビス製袋所

右代表者代表取締役

萩原誠一郎

大阪市西区江戸堀一丁目一八番二七号

第七事件被告

昭和貿易株式会社

右代表者代表取締役

末野明義

大阪市天王寺区舟橋町二番二四号

第七事件被告

マレー株式会社

右代表者代表取締役

野村輝男

秋田市外旭川字三千刈一四七番地の一

第七事件被告

株式会社かねひろ

右代表者代表取締役

土田慶四郎

熊本市龍田町上立田堂ノ前屋敷九一二番地一五五

第七事件被告

株式会社旭紙工

右代表者代表取締役

工藤昭雄

和歌山市萬町一番地

第七事件被告

株式会社森本商店

右代表者代表取締役

森本英喬

右被告ら訴訟代理人弁護士

富岡健一

第一ないし第五事件被告

ら訴訟代理人弁護士

木村静之

右訴訟復代理人弁護士

植村元雄

同右

尾西孝志

同右

瀬古賢二

同右

舟橋直昭

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告エーアールシー及び被告井川は、原告池本に対し、

1  各自三〇七二万五〇〇〇円並びにこれに対する被告エーアールシーは昭和五七年六月一日から及び被告井川は同月二日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  各自二五〇〇万円並びにこれに対する被告エーアールシーは昭和五七年六月一日から及び被告井川は同月二日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  各自一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年二月二〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告山田豊商店及び被告山田は、原告池本に対し、各自一五〇〇万円及びこれに対する昭和五七年一一月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告はせ川フードセンター及び被告長谷川は、原告池本に対し、各自二二五万円及びこれに対する昭和五七年一一月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告服部通商及び被告服部は、原告池本に対し、各自三〇〇万円並びにこれに対する被告服部通商は昭和五七年一一月一四日から及び被告服部は同月二〇日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告遠興は、

1  原告池本に対し一二〇〇万円及び原告会社に対し二〇〇万円並びに右各金員に対する昭和五八年一月一日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告池本に対し四〇〇万円及び原告会社に対し一〇〇万円並びに右各金員に対する平成元年二月二〇日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

六  第七事件各被告は、原告池本に対し別紙「損害金目録」の「原告池本滋が本訴で請求する金額」欄記載の各金員及び原告会社に対し同目録の「原告五月自動機工業株式会社が本訴で請求する金額」欄記載の各金員並びに右各金員に対する昭和五八年一月一日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

七  第七事件被告三菱樹脂株式会社は、原告池本に対し八〇〇万円及び原告会社に対し二〇〇万円並びにこれに対する平成元年二月二〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

八  被告三菱樹脂株式会社を除く第七事件各被告は、原告池本に対し四〇万円及び原告会社に対し一〇万円並びに右各金員に対する平成元年二月二〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

九  訴訟費用は、被告らの負担とする。

一〇  仮執行宣言

第二  事案の概要

本件は、被告らによる包装装置の製造、販売又は使用行為につき、原告池本が、被告ら(第一ないし第五事件各被告のうち会社代表者である被告らを除く。)に対し実用新案権に基づき補償金の支払及び損害賠償を、並びに第一ないし第五事件各被告のうち会社代表者である被告らに対し商法二六六条の三ないし不法行為に基づく損害賠償を、並びに原告会社が、第六、第七事件各被告に対し、実用新案権の独占的通常実施権に基づき損害賠償を、それぞれ求めた事案である。

一  争いのない事実等(以下、書証番号は、第一事件のものを指す。)

1  原告らの権利

(一) 原告池本は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」、その出願を「本件出願」という。)を有していた。

考案の名称 包装装置

出願日 昭和五一年一二月二〇日

出願公開日 昭和五三年七月二〇日

出願公告日 昭和五七年一月二五日

登録日 昭和六〇年五月一四日

登録番号 第一五九四六二四号

(二) 原告池本は、本件実用新案権につき、実施料を一台当たり二〇〇〇円(当初は五〇〇〇円)とする定めのもとに原告会社に対し独占的通常実施権を設定する旨の契約を原告会社との間で締結した(弁論の全趣旨)。

2  実用新案登録請求の範囲

本件考案の実用新案登録請求の範囲は、別添1の実用新案公報(以下「本件公報」とかう。)の該当欄記載のとおりである。

3  本件考案の構成要件

本件考案の構成要件を分説すれば、次のとおりである。

A 長尺な帯状フィルムを引出し可能に収納し、前記帯状フィルムを外方に引き出すための導出口を有する本体と

B 枢支部を有し前記導出口の前方に位置するようにして、前記枢支部を前記本体に回動可能に枢支した回動体と

C この回動体の後部に立設され、上端に設けた密着部に、前記帯状フィルムを密着させることにより該帯状フィルムのそれ以上の引出しを阻止すると共に、帯状フィルムの引っ張り力を受けて、前記回動体を回動させる後立上部と

D この後立上部の密着部よりも下位であって、前記回動体の前方に位置して設けられ、前記帯状フィルムを切断する切断装置と

E この切断装置の後方に位置して、前記回動体の前部に立設され、上端部が常時は、前記切断装置よりも上位に位置し、前記回動体が回動すると、前記切断装置よりも下位に位置し、前記帯状フィルムの切断により前記回動体が復帰回動すると、前記帯状フィルムの切断端に遭遇して、これを自身の上端部に保持する前立上部とを

F 具備して成る包装装置

4  本件考案の作用効果

本件考案の作用効果は、次のとおりである(甲一、甲一三の六)。

(一) 後立上部13の平坦部13aに対する密着力により帯状フィルム4を緊張させた状態で物品を包装することができる。したがって、包装フィルムがたるんで皺を生じこれにより見栄えが悪くなるといった不都合を除去することができる。

(二) 電熱刃21を後立上部15の平坦部15aよりも下方に位置して設けたので、帯状フィルム4を緊張させるべく引っ張る方向を引っ張りやすいほぼ水平方向とすることができ、かつ、このようにしても帯状フィルム4が不用意に溶断されてしまうといったおそれがない。

(三) 帯状フィルム4を切断する場合、該帯状フィルム4を引っ張って緊張させた状態で行うことができるので、帯状フィルム4の使用量を軽減することができる。

(四) 帯状フィルム4は、切断後、両立上部13及び15の平坦部13a、15a間に橋架状態に保持され、かつ、両立上部13及び15特に後立上部13の平坦部13aに対する密着力により帯状フィルム4の本体1内への引き込みを有効に防止することができるので、次に帯状フィルム4を引き出す場合に、両立上部13及び15の平坦部13a、15a間に手指を差し入れることにより帯状フィルム4を容易に摘むことができ、作業がしやすくなる。

(五) 本考案は、以上の実施例から明らかなように、帯状フィルムを緊張させ得るので皺の少ない包装状態を得ることができると共にフィルムの使用量を節減できる包装装置を提供できる。

5  被告らの行為

(一) 被告エーアールシーは、本件出願の出願公開日以降、別紙イ号物件目録及び別紙ロ号物件目録各記載の包装装置(以下、それぞれ「イ号物件」、「ロ号物件」という。)を製造販売した。

(二) 被告山田豊商店、被告遠興及び第七事件各被告(被告昭和貿易株式会社を除く。)は、いずれも前記公開日以降、イ号物件又はロ号物件を販売した。

6  イ号物件及びロ号物件の構成要件該当性

(一) イ号物件は、本件考案の構成要件A、B、D、E及びFを充足する。

(二) ロ号物件は、本件考案の構成要件A、B、D及びFを充足する。

7  本件出願時の公知技術

(一) 株式会社大伸製作所(以下「大伸製作所」という。)は、本件出願前に、「フレッシュパッカーDF103」という包装装置(以下「フレッシュパッカー」という。)を製造販売しており、その構造は、フィルム保持部詳細及び回動体の構造を除き、別紙物件目録(一)第1図のとおりである(回動体11の構造並びにフェルト14の厚み及び貼付される位置については、後記二3のとおり争いがある。)(構造につき、検証(第一、二回))。

(二) 原告会社は、本件出願前に、「マルパックスM-1976・6」という包装装置(以下「マルパックス旧型」という。)を製造販売しており、その構造は、フィルム保持部詳細及び回動体の構造を除き、別紙物件目録(二)第1図のとおりである(回動体11の構造及びフェルト14が貼付される位置については、後記二3のとおり争いがある。)(構造につき、検証(第一、二回))。

二  争点に関する当事者の主張

1  イ号物件は、本件考案の構成要件Cの「密着部」を備えているか(争点1)

(一) 原告ら

(1) 本件考案の構成要件Cにいう「密着部」は、その密着部にフィルムを密着させて引っ張ればフィルムのそれ以上の引出しを阻止し、同時にそのときのフィルムの引っ張り力により回動体を回動させる程度の密着力を発生させることを要し、かつ、それで十分である。

(2) イ号物件の屈曲部分Zは、滑らかな素材でできていて、一般に包装に使用する合成樹脂フィルムと密着性がよく、フィルムを前方に引っ張ったときに阻止力、密着力を発揮し(重量に換算して数百グラム)、フィルムの緊張包装、回動体の回動をもたらすに十分な密着力を発揮できるので、本件考案にいう密着部に相当する。

(3) 密着部の意義を限定して解釈すべきであるとの被告の主張に対する反論は、以下のとおりである。

〈1〉 考案の技術的範囲を定めるに当たって、考案の詳細な説明欄に記載された実施例は拘束力がないから、本件公報の実施例における説明をそのまま本件考案の技術的範囲と同一であるとするのは誤りである。

〈2〉 また、実施例を参酌するとしても、実施例の示す平坦部の形状はゆるやかな曲面であって、平板ではない。かつ、その図面から見ても、平坦部に対してベクトルの強いところは、その右端であって、密着力を発揮しているのも平坦部の右端すなわち本件でいう屈曲部付近である。

〈3〉 被告らは「密着部」なる要件が機能的表現であるから、実施例に限定して解釈すべきであると主張するけれども、本件考案の密着部の意義は構成要件自体で明らかであり、限定して解釈する必要はない。

〈4〉 本件考案は、後記3(二)のとおり、無効事由を有するものではないので、実用新案登録請求の範囲の記載を離れて、実施例に限定して解釈する必要はない。

〈5〉 また、原告池本の先願に係る別添2の公開実用新案公報(乙二)には、外見上、本件考案の構造のものと類似した包装装置が記載されているが、その材質についての記載はなく、密着部を備えていたものではない。右実用新案登録出願の明細書によっても、緊張包装とか、そのための密着という言葉は見当たらず、技術思想が異なることは明らかである。

(4) なお、イ号物件のローラー5に設けられているブレーキは、侵害の成否とは関係がない。すなわち、ブレーキによって負荷をかけるか否かは使用する者の任意である上、この負荷を大きくすれば、ほぼ水平方向への引出しに要する力と共に垂直方向への引出しに要する力も増加し、逆であればいずれも減少するというだけのものである。したがって、本件考案が目的とする垂直方向への引出しに要する力は増加させずに、ほぼ水平方向への引出しに要する力を増大させるという作用効果はまったくない。

(5) したがって、イ号物件は、本件考案の構成要件Cにいう密着部を備えており、構成要件Cを充足する。

(二) 被告ら

(1) 本件考案の構成要件Cにいう「密着部」は、斜め上方を向いた平坦部により構成されていなければならず、かつ、その平坦部は、本件公報の考案の詳細な説明欄に記載されている実施例に示されているような面積と形状を有していなければならない。その理由は、次のとおりである。

〈1〉 本件考案の詳細な説明欄には、「13は回動板11の後縁部に折曲形成した後立上部で、その上端部には密着部として斜め上向きに傾斜せる平坦部13aを折曲形成している」、「帯状フィルム4を……前方に強く引っ張ると、帯状フィルム4は後立上部13の平坦部13aに密着する」と記載されているので、本件考案の「密着部」は、後立上部上端の平坦部であり、斜め上向きにかつ相当の長さをもって折曲形成されている構成を有し、これにより、平坦部に対する密着力により帯状フィルムの引出しを阻止すること及び右の密着力により回動体を回動させることという作用効果を達成していることが明らかである。

本件考案の最も重要な特色は、フィルムを終始緊張状態にして物品の包装をする点にあると解されるが、斜め上向きに傾斜して形成した密着部でなければ、回動体が回動した状態で、フィルムは後立上部の屈曲部分にのみ線接触し、平坦部13aには面接触しないこととなり、フィルムと平坦部との密着によりフィルムの引出しを防止することができない。

〈2〉 本件考案の出願審査経過をみると、出願人(原告池本)は、特許庁がした本件出願に対する拒絶理由通知に対する意見書において、同通知の引例は、フィルムの引出しを阻止しない程度の密着力を有するに過ぎない旨を強調している。したがって、本件考案は、引き出したフィルムをほぼ水平にして物品の包装をする間、フィルムが右密着部の平坦部分に密着する点に本件考案の要旨があるとし、フィルムと面接触しないものはその技術的範囲から除外しているというべきである。

〈3〉 原告池本の先願に係る別添2の公開実用新案公報には、「前後両側縁に逆L字上の立上片19、20を折曲形成した保持板18」が示されており、本件考案の後立上部に対応する部分が立上片20であるが、その上端は水平に折曲形成されている。そして、立上片20の機能については、フィルムに密着させるという旨の記載は一切されていない。

原告池本は、右考案とは異なる構成及び作用効果を有するものとして本件出願に及んだものであり、本件考案では、後立上部の上端部を斜め上向きに傾斜した平坦部とし、その幅を相当大きくすることによって、帯状フィルムを引き出し、前方水平方向に引っ張って回動体を回動せしめた後も依然としてフィルムに密着し得るような密着部を設けたものと解すべきである。

〈4〉 本件考案は、後記3(一)のとおり、全部公知公用の技術であり、無効審判により無効とされる蓋然性が極めて高いから、仮に本件損害賠償請求権の行使が権利の濫用に当たらないとしても、本件考案の技術的範囲、特に「密着部」のそれは、考案の詳細な説明に示されている実施例の字義どおりの内容を持つものとして最も狭く限定して解釈すべきである。

〈5〉 仮に、本件考案が全部公知公用のものでなかったとしても、フレッシュパッカー及びマルパックス旧型は、フィルムの引っ張り力を受けて回動体を回動させるという構成を備えていたのであるから、このような公知技術の存在を前提として本件考案の技術的範囲を定めると、本件考案の密着部は、「斜め上両きに傾斜して形成された平坦部13a(密着部)を有し、フィルムを水平方向に引っ張ると、フィルムと密着し、それ以上の引出しを阻止し、緊張状態で包装することが可能であるような構成部分」と解すべきである。

〈6〉 本件考案の構成要件では、密着部の作用ないし機能を説明してあるにすぎず、典型的な機能的クレームである。したがって、その構造は、考案の詳細な説明の実施例の説明及び図面の記載に限定してその意義を解釈すべきである。

(2) これに対し、イ号物件の後立上部(屈曲部分を含む。)は、逆U字形(両端に丸みがある。)であり、平坦な部分の幅は五ないし七ミリメートルに過ぎないので、フィルムを前方に引っ張ったときに、フィルムとは幅の狭い線状でしか接触せず、フィルムの緊張包装、回動体の回動をもたらすのに必要な密着力を発揮できないので、本件考案にいう密着部に相当しない。そもそも、イ号物件においては、本件考案にいうような緊張包装の思想は無縁であり、物品を包装する過程において、フィルムをローラーから斜め前方に引き出す際、フィルムが緊張状態になることは一切ないものである。

なお、後立上部(屈曲部分を含む。)の素材自体に、フィルムに対する密着性があることは認める。

(3) また、イ号物件においては、イ号物件目録第1、2図記載のとおり、二本のフィルムローラー5、5の一側面部分に調整ねじを備えたブレーキ板が取り付けられており、フィルムを前方に引き出すときに、巻きフィルムの自重及びフィルムローラーの一側面部分を押え付ける右ブレーキ板が作用してフィルムの引出しに対する抵抗力が働くようになっているものであって、屈曲部分Zのみによってフィルムに対する引出しの阻止力及び密着力を発揮するものではないから、屈曲部分Zは、本件考案にいう密着部に相当しない。

(4) したがって、イ号物件は、本件考案の構成要件Cにいう「密着部」を備えていない。

2  ロ号物件は、構成要件Cの「前立上部」及び構成要件Eの「後立上部」を備えているか(争点2)

(一) 原告ら

(1) 本件考案における前立上部は、後立上部とそのまま接続されて外見上一個の部品に見える形状のものであっても、フィルムを保持するという前立上部としての機能があればよい。すなわち、構成要件の数と部品の数は一致する必要はなく、一個の部品で二つの機能を果たす場合や、二個の部品で一つの機能を発揮する場合は、この数は一致しないのが普通だからである。

フィルム取出しが容易になるということは、フィルム保持機能による構成要件自体の効果であり、両立上部の平坦部の間に橋架状態に保持されることによって作業がしやすくなるというのは、実施例特有の効果である。すなわち、フィルム保持機能がない場合(フィルムは戻りやすい)と対比し、これがある場合はフィルム取出しは、橋架状態となるか否かにかかわらずはるかに容易になるからであり、実用新案登録請求の範囲の記載においても、「前立上部」の意義として、「前記帯状フィルムの切断により前記回動体が復帰回動すると、前記帯状フィルムの切断端に遭遇して、これを自身の上端部に保持する」ものであることを明言している。

(2) ロ号物件においては、立上部材Xの屈曲部分Zが、本件考案にいう後立上部の密着部としての機能を果たしている。このことは、前記1(一)のとおりイ号物件について主張したところと同様である。

ロ号物件のローラーは、帯状フィルムを滑らせるという本件考案の実施例にいうフェルトと同一の機能を果たすものである。

また、ロ号物件の立上部材Xの受け板部材Yは、本件考案にいう前立上部と同一のフィルム保持の機能を果たしている。

(二) 被告ら

(1) 本件考案における後立上部と前立上部とはある程度距離をおいた別個の部材であることを要する。したがって、ロ号物件には、このような意味での前立上部はない。すなわち、

〈1〉 本件実用新案登録請求の範囲には、後立上部と前立上部とは明らかに別個の要件として区別して記載されている。

〈2〉 考案の詳細な説明には、前記第二の一4(四)のとおり、帯状フィルムが両立上部の平坦部間に橋架状態となることによる作用効果が記載されている。

(2) ロ号物件のローラー14に滑り効果があることは認める。

しかし、ロ号物件の立上部材Xの屈曲部分Zが、本件考案にいう後立上部の密着部に該当しないことは、イ号物件について前記1(二)で主張したところと同様である。

したがって、ロ号物件は、本件考案の後立上部の要件を備えていない。

また、ロ号物件の立上部材Xの受け板部材Yの部分に、フィルム保持の機能があることは認めるが、前後の両立上部の間に指を入れやすいという作用効果はない。

3  権利濫用の主張等(争点3)

(一) 被告ら

(1) 本件出願前に製造販売されていたフレッシュパッカーの回動体の構造は、別紙物件目録(一)第2、3図のとおりであった。

また、本件出願前に製造販売されていたマルパックス旧型の回動体の構造は、別紙物件目録(二)第2、3図のおりであり、後立上部後面には滑り部材が貼付されており、右滑り部材上端と後立上部の平坦部との間には、約一・四ミリメートル程度の隙間が存する。

したがって、右両製品においては、フィルムを引き出して前方に引っ張ると、フィルムは必ず後立上部の平坦部に接触し密着する。

(2) 仮に、右フレッシュパッカー及びマルパックス旧型のフェルトないし滑り部材の位置が原告ら主張のとおり後立上部の上端ぎりぎりまでであったとしても、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、滑り部材等に関する記載はまったく存在しないから、滑り部材は構成要件外の問題であり、滑り部材等の貼り方いかんは本件考案とは関係がない。

(3) したがって、本件考案の構成要件をすべて具備した包装装置(フレッシュパッカー及びマルパックス旧型)が、本件考案出願前に、製造、販売、使用されていたのであるから、本件考案は、出願前全部公知公用のものであり、実用新案法三条一項一号及び二号の規定によって、本来、実用新案登録を受けることができないものである。そして、本件実用新案権については、実用新案登録無効審判請求がされており、これが無効とされる蓋然性は極めて高いから、本件実用新案権に基づく損害賠償請求権等の行使は、権利の濫用の法理に照らし、許されない。

(二) 原告ら

(1) 本件出願前に製造販売されていたフレッシュパッカーの回動体の構造は、別紙物件目録(一)第4ないし第7図のとおりであり、前立上部の平坦部がなく、前立上部の上端部は切断装置よりも上に位置するものでもなかった。

また、マルパックス旧型の回動体の構造は、別紙物件目録(二)第4図のとおりであり、前立上部の平坦部は常時切断装置よりも下に位置していた。

(2) フレッシュパッカー及びマルパックス旧型は、いずれも、フェルト部分が後立上部の垂直部分の上部一杯まで覆っていたため、フィルムを前方に引っ張っても、フィルムは平坦部(屈曲部はもちろんそれ以外も)には密着できず、したがって、本件考案にいう密着部を有していなかった。

そもそも、右の二機種は、フィルムを引き出すのにできるだけスピーディーにということを目的としたもので、ある程度前方にフィルムを引っ張っても平坦部にフィルムが密着することによって、フィルムの引出しの妨げにならないようにとの技術思想から、右のようなフェルトが貼られていたもので、本件考案とは技術思想の点において正反対のものであった。

(3) 本件考案において、フェルトについては、考案の詳細な説明では触れられているが、本件実用新案登録請求の範囲にはその記載はなく、原則として構成要件外の問題であることは認める。

しかし、そのことは、フェルトを備えないものでも本件考案に抵触することがあるということを意味するのであって、その反対に、フェルトがある特定の構造をとることによって、本件考案の効果を打ち消してしまい、したがってその目的を達成できないことがあることまでも否定するものではない。

そして、構成要件外の要件が加わったために、本来の構成要件が発揮すべき効果を上げられず、その目的を達成できないようなものは、考案の技術的範囲には属さないと解されているところ、前記二機種では、フェルトが上部まで張り出していることによって、後立上部には本件考案にいう密着性はなく、密着部の要件を満たしていない。

したがって、前記二機種によって、本件考案が出願前に全部公知であったということはできない。

(4) したがって、本件考案は、出願前全部公知公用のものではなかった。

4  損害及び被告らの責任(争点4)

(一) 第一・第二事件関係

(1) 原告池本

〈1〉 イ号・ロ号物件の製造販売

イ 被告エーアールシーは、出願公開後出願公告前に、イ号物件を五万台以上製造販売した。

ロ 被告エーアールシーは、昭和五六年一月以降出願公告前に、ロ号物件を、五〇〇〇台以上、出願公告以降昭和五八年末までの間に三万台以上製造販売した。

ハ 被告エーアールシーは、昭和五九年から現在に至るまで、ロ号物件の製造販売を継続しており、その台数は二万台を下らない。

〈2〉 本件実用新案権の実施料相当額は、一台当たり三八〇〇円である。

〈3〉 原告池本は、本件出願後直ちに被告エーアールシーにその出願書類のコピーを送付し、昭和五二年六月ころ、同被告代表者である被告井川に対し、原告会社で製造販売しているマルパックス包装機のテンションレバーの構造は右考案に係るもので、実用新案として出願中で近日中に公開される予定であり、被告エーアールシーのアサヒパックス、ダイアラッパー等はこれに抵触するものであるから、製造販売を中止するように勧告した。

しかし、被告エーアールシーは製造販売を中止しなかったので、原告池本は同年七月二三日ころ到達した内容証明郵便で中止を勧告した。さらに、昭和五三年五月五日付けの原告会社作成のパンフレットにおいて、イ号物件は本件考案に抵触すること、本件考案は近日中に公開されることを説明し、このパンフレットは被告エーアールシーの各方面の得意先に配布された。

したがって、被告エーアールシーは、出願公開と同時に実用新案登録出願に係る考案であることを知って本件考案を実施したものであり、補償金の支払義務を負う。

〈4〉 取締役は、会社が実用新案法一三条の三によって補償金を支払わなければならないような製品を製造すること、ないしは警告後も中止せずに継続しそのため会社に補償金支払義務を生じさせることを避けるべき注意義務がある。被告エーアールシーは被告井川を中心とするいわゆる同族会社であるが、被告井川が唯一の代表取締役であって同人が実権を握っているところ、被告井川は、昭和五三年六月ころ、原告側から警告を受け、かつ本件出願について同年七月二〇日に公開がされたにも関わらず、イ号物件の製造販売を続けた。しかも、被告エーアールシーの得た利益の多くは、被告井川らに給料、報酬として支払われていて、会社自体には見るべき資産はあまりない状態である。このような中で補償金支払義務を発生させることは、原告らに損害を生じさせるものである。そして、被告井川の注意義務違反の態様は、原告らの度重なる警告を無視したものであるので、故意と同視できるものである。

したがって、被告井川は、商法二六六条の三に基づき、原告らに対し、被告エーアールシーと連帯して責任を負う。

また、原告池本の右補償金請求権は、やがて実用新案権として確立されるべき本件考案に関する法益侵害に対して実用新案法が認めた不法行為責任に由来するものと解されるので、被告会社の経営について実権を有し、その侵害行為を指揮命令してきた被告井川は、民法七〇九条により、右補償金支払債務につき被告エーアールシーと不真正連帯責任を負う。

〈5〉 よって、原告池本は、被告エーアールシー及び被告井川に対し、

イ 右〈1〉イにより、被告エーアールシーは補償金として、被告井川は商法二六六条の三又は民法七〇九条に基づく損害賠償として、一億九〇〇〇万円の支払義務があるところ、その一部として、各自三〇七二万五〇〇〇円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である被告エーアールシーは昭和五七年六月一日から及び被告井川は同月二日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、

ロ 右〈1〉ロにより、被告エーアールシーは補償金として一九〇〇万円及び損害賠償として一億一四〇〇万円の支払義務があり、被告井川は右金員について商法二六六条の三又は民法七〇九条に基づく損害賠償義務を負うところ、その一部として、各自二五〇〇万円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である被告エーアールシーは昭和五七年六月一日から及び被告井川は同月二日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、

ハ 右〈1〉ハにより、被告エーアールシーは損害賠償として、被告井川は商法二六六条の三又は民法七〇九条に基づく損害賠償として、各自一〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成元年二月二〇日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

(2) 被告エーアールシー及び被告井川

〈1〉 被告エーアールシーは、商品番号「203U」及び「203B」なる包装装置を、昭和五三年八月から同年一二月までの間に一万〇九一一台、昭和五四年一月から同年一二月までの間に二万三四〇四台、昭和五五年一月から同年九月までの間に一万〇五七七台、以上合計四万四八九二台を販売した。しかし、これらの中には、部材の組み付けの関係から、イ号物件目録の記載とは異なり、前立上部の平坦部よりもカッター刃の先端が一ミリメートル上位に位置する製品も含まれている。

〈2〉 被告エーアールシーは、ロ号物件を、昭和五六年一月から同年一二月までの間に一万一七九五台、昭和五七年一月から同年一二月までの間に一万五四四七台及び昭和五八年一月から同年一二月までの間に一万七二〇二台、合計四万四四四四台製造販売した。

〈3〉 右(1)〈3〉の警告の事実は否認する。

原告池本が、実用新案法一三条の三第一項に基づき被告の得意先に対して本件考案の内容を記載した書面を提示して警告したのは、昭和五六年一〇月二七日ころであり、被告エーアールシーが本件実用新案登録請求の範囲に記載した考案の内容を知ったのは、同日ころ以降である。

(二) 第三事件関係

(1) 原告池本

〈1〉 被告山田豊商店は、出願公開後出願公告前に、イ号物件及びロ号物件を三〇〇〇台以上販売した。本件実用新案権の実施料相当額は、一台当たり三〇〇〇円であるから、合計九〇〇万円を下らない。

〈2〉 原告池本は、昭和五三年六月初めころ、本件出願資料を被告山田豊商店に送付して同出願が近々公開となる見通しであることを告げて予め警告し、出願公開後の同年九月初めころからは再三再四文書によってイ号物件及びロ号物件の販売の中止を要請し、さらに、昭和五四年二月ころ、本件考案に係る公開実用新案公報写を送付し、内容証明郵便によって販売についての警告と販売の中止を要請した。

また、昭和五三年八月には、被告山田豊商店は、本件考案と公開の事実を知っていた。

〈3〉 被告山田豊商店は、出願公告以降、イ号物件及びロ号物件を合計二〇〇〇台以上販売した。本件実用新案権の実施料相当額は一台当たり三〇〇〇円であるから、合計六〇〇万円を下らない。

〈4〉 被告山田は、被告山田豊商店の代表取締役であって、実質的にも同被告の経営全体を掌握している者であり、補償金については不法行為責任又は商法二六六条の三の取締役の義務違反による損害賠償責任を、出願公告後の損害賠償については不法行為責任を負う。

〈5〉 よって、原告池本は、被告山田豊商店に対し補償金及び損害賠償として、並びに被告山田に対し商法二六六条の三又は不法行為による損害賠償として、右〈1〉及び〈3〉の合計として、各自一五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年一一月一一日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2) 被告山田豊商店及び被告山田

被告山田豊商店が、商品番号「203U」及び「203B」なる包装装置を以前に販売し、商品番号「205U」及び「205B」なる包装装置を現在販売中であることは認め、その余の事実は否認する。

(三) 第四事件関係

(1) 原告池本

〈1〉 被告はせ川フードセンターは、出願公開後昭和五九年七月二七日までに、イ号物件及びロ号物件を合計四五〇台以上使用している。

右使用による利益は一台当たり五〇〇〇円以上であり、本件実用新案権の実施料相当額もこれと同額程度である。

〈2〉 原告池本は、本件出願後直ちに被告はせ川フードセンターにその出願書類のコピーを送付し、昭和五二年六月ころ、原告会社が製造販売しているマルパックス包装機のテンションレバーの構造は右考案に係るものであり、実用新案として出願中で、近日中に公開される予定であり、同被告が使用している被告エーアールシー製造に係るアサヒパックス、ダイアラッパー等はこれに抵触するものであるから、使用を中止するように勧告した。さらに、昭和五三年五月五日付けの原告会社のパンフレットにおいて本件考案の内容及びイ号物件がこれに抵触すること、近日中には出願公開されることを説明し、これを被告はせ川フードセンターにも配布した。したがって、同被告は、出願公開と同時ないし遅くとも昭和五三年八月には、イ号物件の使用が本件考案の実施に当たることを知った。

〈3〉 被告長谷川は被告はせ川フードセンターの代表取締役であり、実質的にもその経営全体を掌握している者であり、補償金については不法行為責任又は商法二六六条の三の取締役の義務違反による損害賠償責任を、出願公告後の損害賠償については不法行為責任を負う。

〈4〉 よって、原告池本は、被告はせ川フードセンターに対し補償金及び損害賠償として、並びに被告長谷川に対し商法二六六条の三ないし不法行為による損害賠償として、各自二二五万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年一一月一一日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2) 被告はせ川フードセンター及び被告長谷川

原告池本主張の事実は否認する。

(四) 第五事件関係

(1) 原告池本

〈1〉 被告服部通商は、昭和五三年ころから出願公告前に、イ号物件及びロ号物件を合計六〇〇台以上、出願公告以降曜和五九年七月二七日までにイ号物件及びロ号物件を合計四〇〇台以上販売した。

本件実用新案権の実施料相当額は、一台当たり三〇〇〇円を下らないから、右行為による補償金の額は一八〇万円、損害賠償の金額は一二〇万円である。

〈2〉 原告池本は、本件出願後直ちに被告服部通商にその出願書類のコピーを送付し、昭和五二年六月ころ、原告会社が製造販売しているマルパックス包装機のテンションレバーの横造は右考案に係るものであり、実用新案として出願中で、近日中に公開される予定であり、同被告が使用している被告エーアールシー製造に係るアサヒパックス、ダイアラッパー等はこれに抵触するものであるから、その販売を中止するように勧告した。さらに、昭和五三年五月五日付けの原告会社のパンフレットにおいて本件考案の内容及びイ号物件がこれに抵触すること、近日中には出願公開されることを説明し、これを被告服部通商にも配布した。したがって、同被告は、出願公開と同時ないし遅くとも昭和五三年八月には、右各物件の販売が本件考案の実施に当たることを知った。

〈3〉 被告服部は被告服部通商の代表取締役であり、実質的にもその経営全体を掌握している者であり、補償金については不法行為責任又は商法二六六条の三の取締役の義務違反による損害賠償責任を、出願公告後の損害賠償については不法行為責任を負う。

〈4〉 よって、原告池本は、被告服部通商に対し補償金及び損害賠償として、並びに被告服部に対し商法二六六条の三ないし不法行為による損害賠償として、各自三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である被告服部通商は昭和五七年一一月一四日から及び被告服部は同月二〇日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2) 被告服部通商及び被告服部

原告池本主張の事実は否認する。

(五) 第六事件関係

(1) 原告ら

(1) 被告遠興は、イ号物件及びロ号物件を、出願公開後出願公告前に約七〇〇〇台、出願公告以降昭和五七年末までに約一〇〇〇台販売した。

本件実用新案権の実施料相当額は、出願公開後出願公告前は一台当たり五〇〇〇円、出願公告以降は原告池本につき一台当たり二〇〇〇円及び原告会社につき同じく三〇〇〇円である。

したがって、実施料相当額は、原告池本につき三七〇〇万円、原告会社につき三〇〇万円である。

〈2〉 被告遠興は、昭和五八年以降、ロ号物件を一万台販売した。

〈3〉 原告池本は、本件出願後直ちに被告遠興にその出願書類のコピーを送付し、昭和五二年六月ころ、原告会社が製造販売しているマルパックス包装機のテンションレバーの構造は右考案に係るものであり、実用新案として出願中で、近日中に公開される予定であり、同被告が使用している被告エーアールシー製造に係るアサヒパックス、ダイアラッパー等はこれに抵触するものであるから、その販売を中止するように勧告した。さらに、昭和五三年五月五日付けの原告会社のパンフレットにおいて本件考案の内容及びイ号物件がこれに抵触すること、近日中には出願公開されゐことを説明し、これを被告遠興にも配布した。したがって、同被告は、出願公開と同時ないし遅くとも昭和五三年八月には、右各物件の販売が本件考案の実施に当たることを知った。

〈4〉 よって、被告遠興に対し、

イ 原告池本は、補償金及び損害賠償として右〈1〉の一部である一二〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五八年一月一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

ロ 原告会社は、独占的通常実施権の侵害による損害賠償として右〈1〉の一部である二〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五八年一月一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

ハ 原告池本は、右〈2〉の行為による損害賠償の一部として四〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成元年二月二〇日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

ニ 原告会社は、右〈2〉の行為による独占的通常実施権の侵害による損害賠償の一部として一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成元年二月二〇日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

の各支払を求める。

(2) 被告遠興

原告らの主張事実は否認する。

被告遠興は、昭和五三年八月から昭和五五年九月までの間に、イ号物件を三二六二台販売したに過ぎない。

(六) 第七事件関係

(1) 原告ら

〈1〉 第七事件被告らは、それぞれ、イ号物件及びロ号物件を、別紙「損害金目録」の「昭和53年8月から昭和57年1月25日までの販売数量」欄及び「昭和57年1月26日から同年末日までの販売数量」欄各記載のとおり販売した。

本件実用新案権の実施料相当額は、出願公開後出願公告前は一台当たり五〇〇〇円、出願公告以降は原告池本につき一台当たり二〇〇〇円及び原告会社につき同じく三〇〇〇円である。

したがって、実施料相当額は、原告池本につき別紙「損害金目録」の「原告池本滋の実施料、補償金相当額」欄及び原告会社につき「五月自動機工業株式会社の損害額」欄各記載のとおりとなる。

〈2〉 昭和五八年以降、第七事件被告らのうち、被告三菱樹脂株式会社は、ロ号物件を二万台、その余の被告らはロ号物件を少なくともそれぞれ一〇〇〇台、それぞれ販売した。

〈3〉 原告池本は、本件出願後直ちに第七事件被告らにその出願書類のコピーを送付し、昭和五二年六月ころ、原告会社が製造販売しているマルパックス包装機のテンションレバーの構造は右考案に係るものであり、実用新案として出願中で、近日中に公開される予定であり、同被告らが使用している被告エーアールシー製造に係るアサヒパックス、ダイアラッパー等はこれに抵触するものであるから、その販売を中止するように勧告した。さらに、昭和五三年五月五日付けの原告会社のパンフレットにおいて本件考案の内容及びイ号物件がこれに抵触すること、近日中には出願公開されることを説明し、これを第七事件被告らにも配布した。したがって、同被告らは、出願公開と同時ないし遅くとも昭和五三年八月には、右各物件の販売が本件考案の実施に当たることを知った。

〈4〉 よって、第七事件被告らに対し、

イ 原告池本は、補償金及び損害賠償として右〈1〉の一部である別紙「損害金目録」の「原告池本滋が本訴で請求する金額」欄記載の各金員及びこれに対する不法行為の後である昭和五八年一月一日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

ロ 原告会社は、独占的通常実施権の侵害による損害賠償として右〈1〉の一部である同目録の「原告五月自動機工業株式会社が本訴で請求する金額」欄記載の各金員及びこれに対する不法行為の後である昭和五八年一月一日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

の支払を求めると共に、第七事件被告三菱樹脂株式会社に対し、

ハ 右〈2〉の行為による損害賠償として、原告池本は八〇〇万円及び原告会社は二〇〇万円並びに右各金員に対する不法行為の後である平成元年二月二〇日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、

その余の第七事件各被告に対し、

ニ 右〈2〉の行為による損害賠償として、原告池本は四〇万円及び原告会社は一〇万円並びに右各金員に対する不法行為の後である平成元年二月二〇日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、

の各支払を求める。

〈2〉 第七事件被告ら

原告らの主張事実は否認する。

第七事件被告らのイ号物件及びロ号物件の販売数量及び販売時期は、別紙1記載のとおりである。

第三  争点に対する判断

一  争点1(イ号物件の構成要件C充足性)について

1  本件考案の構成要件Cにいう「密着部」の意義

(一) 前記第二の一3によれば、構成要件Cにいう後立上部の「密着部」は、後立上部の上端に設けられるもので、帯状フィルムを密着させることによりそれ以上の引出しを阻止すると共に、帯状フィルムの引っ張り力を受けて、回動体を回動させる機能を有するものでなければならないが、その形状及び材質は、実用新案登録請求の範囲には具体的に示されていないし、帯状フィルムをどのようにしてどの程度密着させることを意味するものであるかは、明らかではない。

そこで、以下、「密着部」の意義を明らかにするために、本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の内容、出願審査の過程及び出願当時の技術水準について検討する。

(二) まず、本件明細書の内容について検討する(甲一三の一、三、六)。

(1) 本件明細書に添付された図面及びその簡単な説明は、本件公報記載のとおりであり、本件明細書に記載された考案の詳細な説明によれば、一実施例の説明として、回動板11の後縁部に折曲形成した後立上部13の上端部に、密着部として斜め上向きに傾斜せる平坦部13aが折曲形成され(なお、本件公報の第3図によれば、平坦部13aの表面部分は後立上部の垂直部分13に対して約八〇度の角度をなしている。)、後立上部13の後面にはモール状の布14が固着されている。15は回動板11の前部に切起しにより形成した前立上部で、その上端部にはほぼ水平な平坦部15aを折曲形成し、18は回動板14を常時矢印A方向に回動付勢するねじりコイルばねで、回動板11はこのねじりコイルばね18のばね力により常には後立上部13を布14を介してローラー9に圧接させているとされている。

(2) この実施例の作用としては、以下のとおり記載されている。すなわち、帯状フィルム4の巻終端をほぼ真上に引っ張るようにして導出口7から所定長さ引き出す。この場合、本件公報の第2図に二点鎖線B及びCで示す範囲内(同図によれば水平面に対して約三〇度から約九五度の範囲)で上方に引っ張れば、帯状フィルム4は後立上部13には接触せず、滑性ある布14上をスリップするから容易に引き出すことができる。そして、帯状フィルム4を同図に二点鎖線D及びEで示す範囲内(同図によればほぼ水平から水平面に対して約一〇度の範囲)に引き下げて前方に強く引っ張ると、帯状フィルム4は後立上部13の平坦部13aに密着する。この密着力により帯状フィルム筒体3からのそれ以上の引出しが阻止された状態で緊張状態になると共に、回動板11は軸12を中心にねじりコイルばね18のばね力に抗して矢印Aと反対の方向に回動し、この回動により前立上部15及びカバー部16は電熱刃21よりも下方に下がって該電熱刃21を露出させる。すると帯状フィルム4は電熱刃21に接触してG部において溶断される。帯状フィルム4が溶断されると、それまで緊張状態にあった帯状フィルム4は収縮しようとするが、回動板11がねじりコイルばね18のばね力により矢印A方向に瞬時に復帰回動するため、前立上部15は帯状フィルム4の切断部分に遭遇して該切断部分を平坦部15aに密着させる。したがって、帯状フィルム4は両立上部13及び15間に橋架状態となる。

(3) なお、モール状の布14の位置については、本件明細書に添付された図面の第3図では、後立上部13の垂直部分をほぼ覆い、平坦部13aとの境目付近(屈曲部)が露出するような位置が示されているが、考案の詳細な説明欄では具体的な説明はされていないし、また、フィルムをほぼ水平方向に引っ張った場合にその引出しを阻止する力としては、後立上部13の密着部13aの密着力のみが挙げられており、フィルム筒体を載ぜるローラー5にブレーキ板を設けて引出しを阻止するような手段については、何ら触れられていない。

(三) また、本件出願審査の経緯についてみるに、証拠(甲一三の一、三ないし五、乙一七)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件明細書の、実用新案登録請求の範囲には、当初、後立上部の上端に「平坦部」を設けるとされていたが、後に手続補正書により、「平坦部」が「密着部」と訂正された。

(2) 本件出願に関しては、昭和五六年四月二〇日付けの拒絶理由通知に対し、原告池本は昭和五六年七月二三日付けで意見書を提出し、本件考案の作用効果として「回動体の後部に後立上部を立設し、該後立上部の上端に、帯状フィルムを密着させてフィルムのそれ以上の引き出しを阻止する密着部を設けたので、帯状フィルムを所定長さ引き出してこれを密着部に密着させると、その密着力により帯状フィルムを強く引っ張って緊張させることができ、かつこのように引っ張っても帯状フィルムはそれ以上引き出されることはない。このため、帯状フィルムを強く引っ張って緊張させた状態で包装物品を包むことができ、したがって包装フィルムがたるんで皺を生じ、見栄えが悪くなるといった不都合を解消することができる。」「以上のように(引例の)案内プレート5の端部が本願の密着部と同一の作用効果、即ちフィルム13を強く引っ張ってもその密着力により捲出ロール2からの引き出しを阻止するという作用効果を有するとは考え難く、引例公報の(中略)文章のうち「緊張状態」はフィルム13のヒーターワイヤー6による溶断を可能ならしめる程度の緊張状態と考えるのが至当で、案内プレート5の端部は、その程度の緊張状態を呈するが、しかし捲出ロール2からのフィルム13の引き出しを阻止はしない程度の密着力を有すると解すべきである。したがって、密着部に密着させれば、フィルムを強く引っ張ってもその引き出しは行われなくなる本願とは異なり、強い緊張状態のもとで物品を包んでゆくことは困難で」本件出願の作用効果を得ることはできないと説明していた。

(四) さらに、本件出願当時の技術水準について検討する。

(1) 先願考案について

証拠(乙一、二)によれば、次の事実が認められる。

〈1〉 昭和五一年七月二七日出願公開に係る包装装置についての公開実用新案公報(別添2。出願人は原告)には、「保持板(保持装置)」として前立上部及び後立上部並びにそれぞれの上端に垂直に折曲形成された平坦部を有する回動板が記載されている。

〈2〉 右考案の登録願に添付された明細書には、次のような点が示されている。

イ 後立上部の垂直面にはモール状の布を固着していること

ロ 右回動板は、帯状フィルムを所定長さ引き出してこれを下方に引き下げることにより、コイルばねの弾発力に抗して回動させられること

ハ 帯状フィルムが溶断された後は、電熱線から垂れ下がって回動体の前立上部の平坦部分にその粘着力により付着し、帯状フィルムが両立上部の平坦部分の間に橋架状態となること

ニ 帯状フィルム筒体を載置するローラーは制動装置(図示せず)により常時所定のトルクで制動されているので、帯状フィルムを勢いよく引き出してもフィルム筒体が空回転することが防止されること

〈3〉 右保持板の後立上部の上端部に帯状フィルムを密着させる機能があるかどうかは右公報ないし明細書に明示されてはないが、後立上部及びその上端部の形状並びにモール状の布の位置からすれば、帯状フィルムをほぼ水平方向に引っ張った場合には、少なくとも後立上部上端の屈曲部に接する構造となっている。

〈4〉 保持板の材質についても右公報ないし明細書では触れられていないが(なお、本件考案においても回動体の材質については何ら触れられていないことは、前記(一)のとおり。)、垂直部にはモール状の布が固着されていること及び帯状フィルムの切断後両立上部の平坦部分の間に橋架状態となるとされていることからすれば、右保持板は帯状フィルムと密着しやすい材質のものにより構成されることが前提となっている。

右事実によれば、本件出願前に、前立上部及び後立上部並びにそれぞれの上端に垂直に折曲形成された平坦部を有する回動板の構造は公知であったものであり、右公知技術においても、後立上部の上端部にはフィルムの引出しに対する抵抗力を有する部分が備っていたというべきである(ただし、後立上部の平坦部は後立上部に垂直に形成されており、フィルム筒体を載置するローラーには制動装置も設けられていたから、右上端部自体のフィルム引出しに対する抵抗力はそれほど強いものではなかったと解される。)。

(2) フレッシュパッカーについて

〈1〉 フレッシュパッカーの回動体の構造について、証拠(甲二八ないし三二、乙三一の一ないし五、乙三三、乙七二ないし八三、被告井川敏本人、検証(第一、二回))によれば、以下の事実を認めることができる。

イ 大伸製作所は、昭和四四年から塩化ビニールフィルムで野菜等を包装するための包装装置を「フレッシュパッカー」という名称を付して製造販売してきたが、昭和四七年には、「フレッシュパッカーDF103」という型番の製品の製造販売を始めた。

ロ 昭和四九年ころまでに製造された製品では、回動体は別紙物件目録(一)第4図及び第6図のような構造を有し、前立上部の上端に平坦部は形成されていなかった(この種の回動体は、同第7図のように穴が開いていた。)が、昭和四九年後半に改良が加えられ、別紙物件目録(一)第2、3図のような構造となり、前立上部の上端に平坦部を有するものが製造されるようになった(右第7図のような穴はない。)。ただし、前立上部の上端の平坦部を欠く改良前の製品についても需要があったため、大伸製作所では改良後のフレッシュパッカーと並行して製造販売していた。

ハ フレッシュパッカーの回動体11(右改良後のもの)は、厚さ〇・八ミリメートルのステンレス製であるが、これは、フィルムとの密着性が良い材質として選ばれたものである。また、後立上部13の平坦な密着部13aは、別紙物件目録(一)第3図匹とおり、長さ八・三ミリメートルであって、後立上部13に対して九六・五度の角度で斜め上向きに形成されているが、フィルム切断の際にフィルムを密着させてフィルムの戻りをなくし、かつ、フィルムの引出しを止めて切りやすくするために設けられたものであり、フィルムをほぼ水平方向に引っ張った場合には、フィルムがこの平坦部に接する構造となっている。

ニ 他方、フィルムの引出しをスムーズにするため、回動体11の後立上部13の垂直部分に、幅一〇ミリメートル、厚さ一ミリメートルのフェルト14を貼付したが、その位置は後立上部の垂直部分一杯として、引出しの際にフィルムがステンレス部分に触れないようにしてあり、後立上部の屈曲部を露出させるかどうかという点については特に意識して製造されたものではなかった。

ホ フレッシュパッカーには、フィルム筒体を載せるローラー5にブレーキ板が設けられており、その調整つまみを締めると、フィルムの引出しに抵抗を与える機能を果たしていた。

〈2〉 なお、原告らは、フレッシュパッカーの回動体は、別紙物件目録(一)第5、6図のとおりであり、第2、3図のようなものは本件出願前には製造販売されていなかったと主張する。

しかしながら、検乙第一号証として提出された物件は、証拠(乙三三)により、昭和五〇年以前に製造されたものであることが明らかである(製造番号は五〇五五二一番である。)ところ、回動体の部分が後に取り替えられた形跡は窺われず、また、大伸製作所が昭和五二年六月ころ倒産する以前において自らフレッシュパッカーの回動体に改良を加えていたことも証拠(甲二八、乙七七、八〇、八一)に照らし明らかである。これに対し、原告らが提出した検甲第一号証の製造番号は三一一三七二番であって、検乙第一号証よりも前に製造されたものであることが明らかであるし、原告池本本人も、その主張の裏付けとして、大伸製作所の倒産後である昭和五二年春以降になって初めて右〈1〉ロ認定のような改良後の回動体を有するフレッシュパッカーを見たこと及び大伸製作所発行のカタログの写真の回動体はいずれも穴があいていることを挙げているに過ぎず、これをもって右〈1〉の認定を左右するものではないというべきである。

〈3〉 また、原告らは、フレッシニパッカーでは、別紙物件目録(一)第5、6図のように、回動体11の後立上部13の上端ぎりぎりまで厚さ三ミリメートルのフェルト14が貼られていたため、帯状フィルム4は後立上部13そのものには密着できなかったと主張する。

しかし、フェルトの厚みが一ミリメートルであったことは、証拠(甲三二、乙七三、七七)上明らかである(検証(第二回)によれば、検甲第一号証のフェルトは二・五ないし三・五ミリメートルの厚みを有しているが、このフェルトが製造当初のものでないことは明らかである。)。また、大伸製作所代表者の木谷進の供述調書(乙七三)中には、「屈曲部ができるだけフェルトに触らないように、屈曲部の最上部までフェルトでカバーできるように一杯一杯に貼ってある」との部分があるが、同時に、屈曲部についてはフィルムを触らせまいとしたが、平坦部については触らせて密着させようとしたというのであり、フレッシュパッカーの回動体の構造は別紙物件目録(一)第3図のとおりであって、屈曲部と呼ぶべき部分はごく限られた範囲であること、フェルトの幅は一〇ミリメートルであって後立上部の垂直部分の幅とほぼ同一であることからみて、フェルトの上端は、後立上部13の垂直部分の上端付近に留まり、屈曲部すべてを覆うものではなく、フィルムをほぼ水平方向に引っ張った場合にはフィルムが後立上部の平坦部13aに接するようになっていたとみるべきである。

〈4〉 したがつて、フレッシュパッカーには、ほぼ水平方向にフィルムを引っ張った場合にフィルムと接する平坦部と、常時は切断装置よりも上位にあり、回動体が回動した際には切断装置よりも下位に下がって切断装置を露出させ惹前立上部を有する回動体が備わっていたものであって、本件考案の構成要件を、構成要件Cの「密着部」を「除いて、すべて充たしていたということができる。そして、フレッシュパッカーには、フィルム筒体を載置するローラーにブレーキ板及び調整つまみが設けられており、これによって、フィルムを引き出しにくくすることができたものであって、このような機能と右の回動体の構造とを合わせることにより、後立上部の平坦部に、フィルムの引出しに対する抵抗力を与えていたものとみるのが相当である。

(3) マルパックス旧型について

〈1〉 証拠(検証(第一回))によれば、マルパックス旧型の回動体は、別紙物件目録(二)第2、3図のとおりであったと認められる。

これに対し、原告らは、マルパックス旧型の回動体は、同目録第4図のものであったと主張するけれども、原告らが提出した検甲第三号証はその外見から実際に市販された製品そのものではないと認められる(検証(第二回))から、右認定を直ちに左右するものではないというべきである。

〈2〉 右によれば、マルパックス旧型の回動体は、常時は切断装置よりも上位にあり、回動体が回動した際には切断装置よりも下位に下がって切断装置を露出させる前立上部を有しており、後立上部の上端はフィルムをほぼ水平方向に引っ張った場合にはフィルムと接する屈曲部分を有しているが、フレッシュパッカーと同様、フィルム筒体を載置するローラーにブレーキ板及び調整つまみが設けられており、これによって、フィルムの引出しに抵抗力を与えることができる構造となっていたということができる。

〈3〉 別件における原告池本の本人尋問調書(乙八三)及び同人の特許庁における証拠調調書(乙八二)中には、マルパックス旧型においてはフェルトを後立上部の上端からはみ出すくらいに貼っており、これを露出させることとしたところが本件考案の特徴である旨の供述部分があるけれども、本件公報には、モール状の布の高さや後立上部の上端をどの程度露出させるかといった点に関する記述はまったくないことからすれば、右の供述は不自然であり、採用し難いものというべきである。

(五) 右(二)ないし四に判示したところを総合して検討するに、本件明細書においては回動体の後立上部の上端に斜め上向きに形成した平坦部を設け、これにフィルムを密着させることによってそれ以上の引出しを阻止し、かつ、その状態で回動体を回動させる実施例が示されており、それ以外の構造の「密着部」については示されていないこと、原告池本は、拒絶理由通知に対する意見書において、密着部に密着させるとフィルムを強く引っ張ってもその引出しが行われなくなるとの説明をしていたこと、本件出願時において、後立上部の平坦部ないしは屈曲部分とフィルムの接触及びフィルム筒体を載せたローラーに設けられたブレーキ板の作用によってフィルムの引出しに抵抗力を与える技術は公知であったことを考慮すると、本件考案の構成要件Cにいう「密着部」とは、フィルムに接することによってフィルムの引出しに対する抵抗力を生じるにとどまらず、フィルムを引っ張っても引き出すことができない程度の強い密着力を有するものであって、ブレーキ板によってフィルム筒体を載せたローラーの回転に影響を与えるといった手段を用いることなく、密着部にフィルムを密着させること自体によって、フィルムのそれ以上の引出しを阻止し、回動体を回動させる機能を有するような構造を備えたものを意味するものと解すべきであり、具体的には、本件公報の図面及び発明の詳細な説明に記載されているように、回動体の後立上部の屈曲部を露出させ、かつ、後立上部の上端に斜め上向きに平坦部を形成したもの、又はこれと同程度の強い密着力を有する構造を備えたものを意味するものと解するのが相当である。

なお、平坦部を斜あ上向きではなく水平に形成した場合には、フィルムをほぼ水平方向に引っ張って回動体を回動させると、平坦部自体は回動により斜め下向きとなってフィルムとの密着を保つことができなくなるから、そのような構造のものは、本件考案にいう「密着部」には当たらないと解すべきである。

また、原告らは、右のブレーキ板には、本件考案が目的とする垂直方向への引出しに要する力は増加させずに、ほぼ水平方向への引出しに要する力のみを増大させるという作用効果はまったくないから、ブレーキ板の有無は侵害の成否には関係がないと主張するけれども、右のようなブレーキ板を設けることにより、フィルムの引出しに対する抵抗力を与えることができるのであるから、本件考案の構成要件Cにいう「密着部」の解釈に当たってブレーキ板の有無を考慮に入れることは必要であり、緊張包装を実現するという本件考案の作用効果と関係がないとはいえない(なお、右のようなブレーキ板を備える包装装置であっても、後立上部の「密着部」自体の密着力により本件考案の構成要件Cにいうような機能を有することが明らかであれば、ブレーキ板が設けられている一事をもって、「密着部」を備えていないとすることはできないと解される。)。

2  イ号物件の構成要件充足性

(一) 右1の判示を前提として、イ号物件が本件考案の構成要件Cにいう密着部を備えているかどうかについて検討する。

(二) まず、イ号物件の逆U字状片13の平坦部分は、後立上部に対して垂直、回動板の基板17に対して水平に形成されており、斜め上向きに形成された平坦部は有しない。

また、右逆U字状片13のフェルト14の位置はイ号物件目録第2ないし第4図のとおりであって、屈曲部分Zは露出しているが、フィルムをほぼ水平方向に引っ張った場合には、同第5図のとおり、回動体が回動するため、屈曲部分Zの一部がフィルムに接触するにとどまり、フィルムを強く引っ張っても引き出せない程度の密着が生ずるような構造になっているとは解し難い。

さらに、イ号物件のフィルムローラー5の部分にはブレーキ板が設置されており、ブレーキねじを調節することによって、フィルムローラーの回転に影響を与え、フィルムの引出しに対し抵抗力を与えることができる構造となっている。

(三) 他方、証拠(甲二)によれば、イ号物件において、フィルムを引き出すために要する力は、フィルムが屈曲部分Zに接触するときは一三〇〇グラム、接触しないときは八〇〇グラムという実験結果となっているが、同実験によれば、屈曲部分に油を塗って比較した場合、フィルムが屈曲部分Zに接触するときは一二〇〇グラムとなることが認められる。

したがって、屈曲部分とフィルムが接触することそのものによる抵抗力はそれほど大きいものではないというべきであり、強く引っ張っても引き出せない程度の密着が生ずるものではない。

(四) 以上の事実によれば、イ号物件の回動体の後立上部の屈曲部分Zは、フィルムの引出しに対してある程度の抵抗力を有するとはいえるが、その構造上フィルムと密着する面積は本件公報の図面の場合と比較して相当小さく、また、実験結果からみても屈曲部分がフィルムと接触することそのものによる抵抗力はそれほど大きくはなく、しかも、イ号物件には、フィルムローラーにブレーキ板が設けられているのであるから、イ号物件の屈曲部分Zは、本件考案の構成要件Cにいう「密着部」には該当しないものというべきである。

(五) したがって、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属さない。

二  争点2(ロ号物件の構成要件C・E充足性)について

1  前記第二の一3によれば、本件考案は、構成要件Cとして回動体の後部に立設された後立上部及び構成要件Eとして回動体の前部に立設された前立上部とをそれぞれ有するものである。

右にいう「立設」とは、その字義によれば、回動体の回動板に対して「立てて設ける」ことを意味すると解されるし、また、現に「前立上部」及び「後立上部」は本件公報の図面によれば回動板に対して垂直に形成されており、そのような構造は「立上部」という語句とも一致するものということができる。したがって、回動体の前部及び後部に立設された立上部とは、回動体の前部及び後部においてそれぞれ回動板に対してほぼ垂直に形成された部分を意味するものと解すべきである。

しかも、前記第二の一4によれば、本件考案は、右のように回動体の前部及び後部のそれぞれに立上部を形成することの作用効果として、切断した帯状フィルムを前立上部の平坦部と後立上部の平坦部の間に橋架状態に保持し、帯状フィルムを引き出す場合には、その間に手指を差し入れることにより帯状フィルムを容易に掴むことができるという効果を有するものとされており、この点からみても、本件考案においては、回動体の前部に立設された前立上部と回動体の後部に立設された後立上部を、別個の部材として備えていることが要求されていると解すべきである。

原告らは、本件考案における前立上部は、後立上部とそのまま接続されて外見上一個の部品に見える形状のものであっても、フィルムを保持するという前立上部としての機能があればよいと主張するけれども、右のような本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、右主張は採用し難い。

2  ロ号物件の立上部材Xが構成要件Cの後立上部に相当するとすれば、ロ号物件は前立上部を欠くこととなるし、右立上部材Xが構成要件Eの前立上部に相当するとすると、ロ号物件は後立上部を欠くものと解さざるを得ない。

3  したがって、ロ号物件は、本件考案の技術的範囲に属さないというべきである。

三  したがって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないというべきである。

第四  総括

以上のとおりであるから、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 後藤博 裁判官 入江猛)

損害金録目

〈省略〉

イ号物件目録

イ号物件は、第1図及び第2図に示すように、全体の枠組みは異なるが、要部を共通にし、同図面に示された形状を有し、以下に記す構造を有するパッカー(包装装置)である(なお、文中の前後の方向は、使用者に近い方を前とした場合のものである。)。

第1図はイ号物件のうち「203U」等の名称で呼ばれているもの及び第2図は「203B」等の名称で呼ばれているもののそれぞれ全体を示す側面図であり、第3図は両者に共通する要部の断面図であり、第4、5図は、使用状態における要部断面図である。

本体1には後部にフィルムローラー5、5が取り付けられており(その下部の補助ローラーはないものもある。)、長尺フィルム3が載置できるようになっている。

本体1の中央部にはローラー9が設置され、このローラー9と後記逆U字状片13との間は長尺フィルム3から引き出された帯状フィルム4が通過できる隙間がある。

本体1の中央部前方には回動部材11が設けられ、この回動部材11は軸12を中心として回動するよう軸12に取り付けられていると共に、ばね18によって張られている。

回動部材11は、逆U字状片13、基板17、逆L字状片15及びカバー16を有している(順番は後方から)。

逆U字状片13の後上端である屈曲部分Zの表面は平滑であり、塩化ビニール等の高分子薄膜とは密着容易な表面構造になっている。

逆U字状片13のローラー9に向かう面にはフェルト14が取り付けられているが、このフェルト14の上端は、屈曲部分Zを覆うことなく、それより少し下位に留まっている。

逆L字状片15の上坦面15aは、ほぼ平坦となっている。

カッター刃21は、加熱装置(図示せず)を有していて、回動部材11の逆L字状片15とカバー16の間に位置するよう、本体1に固定されている。

回動部材11が回動しているときの各部材の相対的位置関係は、第4、5図に示すとおりである。

イ号物件には、フィルムロラー5の部分にブレーキ板が設置されており、ブレーキねじを調節することによって、フィルムローラーの回転に影響を与え、フィルムの引出しに対し、抵抗力を与える作用をもたらす。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

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第5図

〈省略〉

ロ号物件目録

ロ号物件は、第1図及び第2図に示すように、全体の枠組みは異なるが、要部を共通にし、同図面に示された形状を有し、以下下に記す構造を有するパッカー(包装装置)である(なお、文中で用いられる前後の方向は、使用者に近い方を前とした場合のものである。)。

第1図はロ号物件のうち「205U」等の名称で呼ばれているもの及び第2図は「205B」等の名称で呼ばれているもののそれぞれ全体を示す側面図であり、第3図は、両者に共通する要部の断面図であり、第4、5図は、使用状態における要部断面図である。

本体1には後部にフィルムローラー5、5が取り付けられており(その下部の補助ローラーはないものもある。)、長尺フィルム3が載置できるようになっている。

本体1の中央部にはローラー9が設置され、このローラー9と後記ローラー14との間は長尺フィルム3から引き出された帯状フィルム4が通過できる隙間がある。

本体1の中央部前方には回動部材11が設けられ、この回動部材11は軸12を中心として回動するよう軸12に取り付けられていると共に、ばね18によって張られている。

回動部材11は、ローラー14、基板17、立上り部材X、受け板部材Y及びカバー16を有している(順番は後方から)。

ローラー14は回転できるようになっている。

立上り部材Xの上端である屈曲部分Zの表面は平滑であり、塩化ビニール等の高分子薄膜とは密着容易な表面構造になっている。受け板部材Yはほぼ平坦となっている。

カッター刃21は、加熱装置(図示せず)を有していて、回動部材11の受け板部材Yとカバー16の間に位置するよう、本体1に固定されている。

これらの位置関係は、次のとおりである。

屈曲部分Zと受け板部材Yとを結ぶ接線L(想像線)を基準とすると、

(一) 静止状態(回動部材11が回動運動をしていないとき及び回動運動から復帰したとき)においては、カッター刃21は右接線Lの内側にある。

(二) 屈曲部分Zに力が加わり、受け板部材Yが内側の方向に向かう方向に回動部材11が回動すると、カッター刃21は右接線Lの外側に出る(第4、5図参照)。

(三) ローラー14と屈曲部分Zとを結ぶ接線N(想像線)を基準とすると、静止状態(回動部材11が回動運動をしていないとき及び回動運動から復帰したとき)において、カッター刃21は内側にある。

(四) なお、受け板部材Yとカバー16を結ぶ接線M(想像線)を基準にした場合は、前記接線Lを基準にした(一)、(二)の場合と同様である。

ロ号物件には、フィルムローラー5の部分にブレーキ板が設置されており、ブレーキねじを調節することによって、フィルムローラーの回転に影響を与え、フィルムの引出しに対し、抵抗力を与える作用をもたらす。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

物件目録(一)

フレッシュパッカーDF103の構造は、別紙図面記載のとおりである。

ただし、フィルム保持部詳細及び回動体の構造については、被告らは第1ないし3図のとおりであると主張し、原告らは第4ないし第7図のとおりであると主張している。

(図面の説明)

1は包装器の本体

3はフィルムをロール状に巻いた筒体

4は筒体3から引き出された帯状フィルム

5は筒体3を載せている一対のローラー

7は筒体3から引き出された帯状フィルム4を外方に引き出すための導出口

11は回動体

11aは回動体11の下部に固設された枢支片

12は枢支片11aを支持する軸

13は回動体11の後部に形成されている後立上部

13aは後立上部13の上端の斜め上向きに傾斜して形成された平坦な密着部

15は回動体11の前部に形成されている前立上部

15aは前立上部15の上端に形成された平坦な密着部(第2図及び第3図のみ)

18はばねであって、常時は回動体11を矢印Rの反対方向に回動付勢している。

21は電熱線よりなる、帯状フィルムの切断装置

22は電熱盤であって、被包装物が最終的にこの盤の上で包装される。

本体1は長尺の帯状フィルム4を引き出し可能に収納し、前記帯状フィルムを外方に引き出すための導出口7を有する。

回動体11は枢支片11aを有し、前記導出口7の前方に位置して本体1に回動可能に枢支されている。

(以下の説明は、第1ないし3図のみ)

後立上部13は前記回動体11の後部に立設され、その上端に斜め上向きに形成された平坦状の密着部13aに前記帯状フィルム4を密着させることにより該帯状フィルム4のそれ以上の引き出しを阻止すると共に、帯状フィルム4の引っ張り力を受けて前記回動体11を回動させる横造を有する。

切断装置21は前記後立上部13の密着部13aよりも下位であって、前記回動体11の前方に位置して前記帯状フィルム4を切断する構造を有する。

前立上部15は前記切断装置21の後方に位置して前記回動体11の前部に立設され、その前立上部の上端の密着部15aが常時は前記切断装置21よりも上位に位置し、前記回動体11が回動すると前記切断装置よりも下位に位置し、前記帯状フィルム4の切断により前記回動体11がばね18の作用により復帰回動すると、前記帯状フィルム4の切断端に遭遇して、これを自身の上端の密着部15aに保持する構造を有する。

なお、14は後立上部垂直面にその上端屈曲部近くまで貼付された滑性のある布(フェルト)である。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

物件目録(二)

原告会社製「マルパックスM-1976・6」の構造は、別紙図面のとおりである。

ただし、フィルム保持部詳細及び回動体の構造については、被告らは第2、3図のとおりであると主張し、原告らは第4図のとおりであると主張している。

(図面の説明)

1は包装器の本体

3はフィルムをロール状に巻いた筒体

4は筒体3から引き出された帯状フィルム

5は筒体3を載せている一対のローラー

7は筒体3から引き出された帯状フィルム4を外方に引き出すための導出口

9は帯状フィルム4を誘導するローラー

11は回動体

11aは回動体11の下部に固設された枢支片

12は枢支片11aを支持する軸

13は回動体11の後部(図では右の方の部分)に形成されている後立上部

13aは後立上部13の上端に形成された平坦状のフィルム密着部

15は回動体11の前部(図では左の方の部分)に形成されている前立上部

15aは前立上部15の上端に形成された平坦状のフィルム密着部

16はカバー

17はカバー16の上端部と前立上部15の上端の密着部15aの先端との間に形成されている隙間

18はばねであって、常時は回動体11を矢印Rの反対方向に回動付勢している。

21は電熱線よりなる、帯状フィルムの切断装置

22は電熱盤であって、被包装物が最終的にこの盤の上で包装される。

本体1は長尺の帯状フィルム4を引き出し可能に収納し、前記帯状フィルム4を外方に引き出すための導出口7を有する。

回動体11は枢支片11aを有し、前記導出口7の前方に位置して本体1に回動可能に枢支されている。

(以下の説明は、第2、3図のみ)

後立上部13は前記回動体11の後部に立設され、その上端に形成された平坦状の密着部13aに前記帯状フィルム4を密着させることにより該帯状フィルム4のそれ以上の一引出しを阻止すると共に、帯状フィルム4の引っ張り力を受けて前記回動体11を回動させる構造を有する。

切断装置21は前記後立上部13の密着部13aよりも下位であって、前記回動体11の前方に位置して前記帯状フィルム4を切断する構造を有する。

前立上部15は前記切断装置21の後方に位置して前記回動体11の前部に立設され、その前立上部の上端の密着部15aが常時は前記切断装置21よりも上位に位置し、前記回動体11が回動すると前記切断装置21よりも下位に位置し、前記帯状フィルム4の切断により前記回動体11がばね18の作用により復帰回動すると、前記帯状フィルム4の切断端に遭遇して、これを自身の上端の密着部15aに保持する構造を有する。

なお、14は後立上部垂直面にその上端屈曲部近くまで貼付された滑性のある布(フェルト)である。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

五月自動機工業(株)製

マルパックス概略図

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

別紙1

被告名 担当 イ号販売時期 イ号販売数量 ロ号販売時期 ロ号販売数量 備考

(103号) 他社製扱

株氏会社遠興 ARC 53年8月~55年9月 3,262

(104号)

三菱樹脂株式会社 三菱 52年4月~54年4月 17,000 54年5月以降 50,000

沢株式会社 三菱 同上 800 有

東京フィルム販売株式会社 三菱 同上 1,200

日研工業株式会社 三菱 同上 150

西久保製袋株式会社 三菱 同上 1,900

北包連株式会社 ARC 53年8月~55年9月 442

フッタ電子株式会社 三菱 同上 150

太洋興業株式会社 ARC 同上 1,364

シモジマ商事株式会社 三菱 同上 250

株式会社エビス製袋所 三菱 同上 650

昭和貿易株式会社 ARC

マレー株式会社 三菱 同上 300 有

株式会社かねひろ ARC 同上 127

株式会社旭紙工 ARC 同上 484

株式会社森本商店 ARC 同上 70

別添1

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告

〈12〉実用新案公報(Y2) 昭57-3923

〈51〉Int.Cl.3B 65 B 67/10 61/10 識別記号 庁内整理番号 7153-3E 7123-3E 〈24〉〈44〉公告 昭和57年(1982)1月25日

〈54〉包装装置

〈21〉実願 昭51-170483

〈22〉出願 昭51(1976)12月20日

公開 昭53-88459

〈43〉昭53(1978)7月20日

〈72〉考案者 池本・滋

名古屋市中川区本前田町36

〈71〉出願人 池本・滋

名古屋市中川区本前田町36

〈74〉代理人 弁理士 佐藤強外1名

〈56〉引用文献

実公 昭43-11116(JP、Y1)

〈57〉実用新案登録請求の範囲

長尺な帯状フイルムを引き出し可能に収納し前記帯状フイルムを外方に引き出すための導出口を有する本体と、枢支部を有し前記導出口の前方に位置するようにして前記枢支部を前記本体に回動可能に枢支した回動体と、この回動体の後部に立設され上端に設けた密着部に前記帯状フイルムを密着させることにより該帯状フイルムのそれ以上の引き出しを阻止すると共に帯状フイルムの引張力を受けて前記回動体を回動させる後立上部と、この後立上部の密着部よりも下位であつて前記回動体の前方に位置して設けられ前記帯状フイルムを切断する切断装置と、この切断装置の後方に位置して前記回動体の前部に立設され上端部が常時は前記切断装置よりも上位に位置し前記回動体が回動すると前記切断装置よりも下位に位置し前記帯状フイルムの切断により前記回動体が復帰回動する前記帯状フイルムの切断端に遭遇してこれを自分の上端部に保持する前立上部とを具備して成る包装装置。

考案の詳細な説明

本考案は長尺な帯状フイルムにより物品を包装しつつ該帯状フイルムを切断する包装装置に関するもので、その目的は作業性が良く、しかもフイルムを緊張状態にして物品を包装することができる包装装置を提供するにある。

以下本考案の一実施例を図面に基づいて説明する。1は本体て、その前部には配電函2を配設している。3は長尺な帯状フイルム4を筒状に巻回して成るフイルム筒体て、本体1内の下部後方に枢設した一対のローラ5、5上に回転可能に載置してある。フイルム筒体3はローラ5、5に密着し、帯状フイルム4の引き出しにより自転してローラ5、5を回転させる。6は本体1の上部に開閉回動可能に枢設した蓋板で、これは常時は本体1の開放上面を閉鎖しており、その前縁部と配電函2との間に帯状フイルム4を外方に導出するための導出口7を形成している。3、8は配電函2の後方上部の左右両端に一体に延設した支持片で、これら両支持片8、8間には二個のローラ9、10を上縁に回転自在に枢設している。11は回動体としての回動板で、その下部後方寄りの部位には枢支部たる枢支片11aを下向きに折曲形成している。この回動板11は枢支片11aを配電函2に軸12を介して回動可能に枢支し、導出口7の前方に位置している。13は回動板11の後縁部に折曲形成した後立上部で、その上端部には密着部とすて斜め上向きに傾斜せる平担部13aを折曲形成している。14は後立上部13の後面に固着したモール状の布である。15は回動板11の前部に切起しにより形成した前立上部で、その上端部には略水平な平担部15aを折曲形成している。16は回動板11の前方に一体に延設した略逆L字状カバーで、その上端部と前立上部15の平担部15aの先端との間には隙間17を形成している。18は回動板14を常時矢印A方向に回動付勢するねじりコイルばねで、回動板11はこのねじりコイルばね18のはね力により常には後立上部13を布14を介してローラ9に圧接させている。19は回動板11の反矢印A方向の回動限界位置に定めるストッパーである。20、20は配電函2の前部の左右両側に立設した支柱で、これら両支柱20、20間に切断装置としての電熱刃21を架設している。この電熱刃21は前力上部15とカバー部16とで形成する空間内、即ち回動板11の前方であつて後立上部13の平担部13a及び前立上部15の平担部16aよりも若干下位に位置しており、回動板11が反矢印A方向に回動することにより隙間17から外方に露出するようになつている。22は本体1前部の平部1aに設けた電熱盤である。尚、23は配電函2内に配設された電熱盤27を通断電するスイッチ装置である。

次に上記構成の作用を説明する。まず帯状フイルム4の巻終端をローム10に架け渡すと共に、ローラ9と後立上部13との間に挿通するようにして導出口7から外方に導出する。またスイッチ装置23を投入して電熱刃21及び電熱盤22を加熱しておく。而して、帯状フイルム4の巻終端を略真上に引張るようにして導出口7から所定長さ引き出す。この場合、第2図に二点鎖線B及びCで示す範囲内で上方に引張れば、帯状フイルム4は後立上部13には接触せず、滑性ある布14上をスリッブするから容易に引い出すことができる。そして、帯状フイルム4を第2図に二点線D及びEで示す範囲内に引き下げて前方に強く引張ると、帯状フイルム4は後立上部13の平担部13aに密着する。この密着力により帯状フイルム簡体3からのそれ以上の引き出しが阻止された状態で緊張状態になると共に、回動板11は軸12を中心にねじりコイルばね18のばね力に抗して反矢印A方向に回動し、この回動により前立上部15及びカバー部16は電熱刃21よりも下方に下がつて該電熱刃21を露出させる。この状態で、包装すべき物品Fを一回転させて緊張状態にある帯状フイルム4を物品Fに巻回し(第3図参照)、帯状フイルム4の巻回始端と巻回終端とを物品Fの底部て重ね合わせ、この後物品Fを第3図に示すように若干斜めに煩けながら若干下方に下ける。すると帯状フイルム4は電熱刃21に接触してG部において溶断される。この後、物品Fを包囲したフイルムのうち物品Fの左右両側から外側に突出している部分を物品Fの底部に折り込んて重ね合わせ、つして物品Fを電熱盤22上に載せてフイルムの重合部分を互に溶するものである。

一方、前述のようにして帯状フイルム4が溶断されると、それまで緊張状態にあつた帯状フイルム4は収縮しようとするが、回動板11がねじりコイルばね18のばね力により矢印A方向に瞬時に復帰回動するため、前立上部15は帯状フイルム4の切断部分に遭遇して該切断部分を平担部15aに密着させる。従つて、帯状フイルム4は両立上部13及び15間に橋架状態となる(第2図参照)。

このように本実施例によれば、後立上弐13の平担部13aに対する密着力により帯状フイルム4を緊張させた状態で物品を包装することができる。従つて包装フイルムがたるんでを生じこれにより見栄えが悪くなるといつた不都合を除去することができる。また電熱刃21を後立上部15の平担部15aよりも下方に位置して設けたので、帯状フイルム4を緊張させるべく引張る方向を引張り易い略水平方向とすることができ、且つこのようにしても帯状フイルム4が不用意に溶断されてしまうといつたれはない。更に帯状フイルム4を切断する場合、該帯状フイルム4を引張つて緊張させた状態で行うことができるので、帯状フイルム4をG部のような個所で切断することができる。然るに帯状フイルム4を緊張させることができをい従来の包装装置では、帯状フイルム4をG部で切断しようとすると、帯状フイルム4がたるみ、これによつて電熱刃21が物品Fの底部に当たるれがあるため、帯状フイルウ4を更に引き出して物品Fの後縁部Hよりも更に後方の部分が電熱刃21に当たるようにする必要があつて帯状フイルム4の使用量が長くなる欠点があつたが、本実施例では斯る欠点を除去でき、帯状フイルム4の使用量を軽減することができるものである。

しかも、帯状フイルム4は切断後、両立上部13及び15間に橋架状態に保持され、且つ両立上部13及び15特に後立上部13の平担部13aに対する密着力により帯状フイルム4の本体1内への引き込みを有効に防止することができるので、次に帯状フイルム4を引き出す場合に、両立上部13及び15間に手指を差し入れることにより帯状フイルム4を容易にむことができ、作業がし易くなる。

図面の簡単な説明

図面は本考案の一実施例を示し、第1図は全体を示す側面図、第2図は要部の拡大縦断側面図、第3図は作用説明図である.

図面中、1は本体、3はフイルム筒体、4は帯状フイルム、7は導出口、11は回動板(回動体)、11aは枢支片(枢支部)、13は後立上部、13aは平坦部密着部、14は布、15は前立上部、15aは平坦部、16はカバー部、18はねじりコイルばね、21は電熱刃(切断装置)、22は電熱盤である。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

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乙第2号証 別添2

〈19〉日本国特許庁

〈51〉Int.Cl2. B 65 B 11/48 B 65 B 5/06 B 65 B 61/10 B 65 B 67/00 〈52〉日本分類 134 A 31 134 C 102.1 134 C 102.2 公開実用新案公報 庁内整理番号 6519-38 7039-38 7039-38 〈11〉実開昭51-93761

〈43〉公開 昭51(1976).7.27

審査請求 未請求

〈54〉包装装置

〈21〉実願 昭50-11768

〈22〉出願 昭50(1975)1月24日

〈72〉考案者 出願人に同じ

〈71〉出願人 池本滋

名古屋市中川区富田町前田新田前105

〈74〉代理人 弁理士 佐藤強 外1名

〈57〉実用新案登録請求の範囲

筐体及びこの筐体に配設される配電函とから成りフイルムの導出口を有する本体と、この本体内に設けられ長尺な帯状フイルムを巻回して成るフイルム筒体と、このフイルム筒体から引出される帯状フイルムを前記導出口に案内するガイドローラと、物品を包装すべく前記導出口から引出された帯状フイルムを所定長さに溶断する電熱線と、前記帯状フイルムの溶断端部分を前記本体外に引出し可能に保持する保持装置と、物品を包装したフイルムの折り重なり部分を溶着する電熱盤とを具備して成り、前記配電函に前記ガイドローラ及び電熱線並びに保持装置を配設するようにしたことを特徴とする包装装置。

図面の簡単な説明

図面は本考案の一実施例を示し、第1図は側面図、第2図は正面図、第3図は筐体を除去して示す配電函部分の拡大側面図、第4図は配管函部分の拡大縦断側面図である。

図面中、1は筐体、2は配電函、4は本体、6はフイルム筒体、7は帯状フイルム、10は導出口、11は支持片、12はガイドローラ、13は軸、14はローラ(保持装置)、15は透孔、17はねじりコイルばね、18は保持板(保持装置)、19及び20は立上片、22はねじりコイルばね、29は電熱線、32は電熱盤、34は主電源スイツチ、36は変圧器、37は切換スイツチを示す。

第1図

〈省略〉

第2図

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第3図

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第4図

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実用新案公報

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公開実用新案公報

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